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再生

私は一度停止したことがある

停止する瞬間を人に捉えられていた

私はその人のことを覚えている

その人は私のことを覚えている 

その近しい人によって私は停止された

 

私は一度、停止されたことがある

私にとっての物語はそこで終わった

その人にとっての私の物語もそこで終わった

しかし、その人の中で私は生き続けている

その周りの人の中で私は生き続けている

 

私は一度、停止してしまった

それでも、もう一度、あの人に会いたい

その思いだけは残っている

 

 

どうやら準備が整ったようだ

私は再び動き出す

再びあなたの前に蘇る

私は今、再生される

 

 

光源が私の方を向いている

白い

明るい

眩しい

私は必死に明るさから目をそらす

周りは暗い

何も見えない

 

徐々に眩さに目が慣れてくる

観客がいる

私はその中を探す

しかし

その中にその人の姿はない

 

ああ、今回もダメか

結局今回も会えないのか

あの人がいないのは

これで何度目だろう

 

今回のセッションも

残り時間がわずかだ

幕引きだ

エンドロールだ

 

私は停止される

そしていつかまた再生される

 

この先

私を最初に停止したあの人に会うことは

できるのだろうか

 

本当はその答えはもうわかっている

 

毎回同じ答えにたどり着くのも

また、再生なのだから

 

鳩の面接

公園のベンチで面接までの時間潰しをしていると、一羽の鳩が足元に降り立った。どこにでもいる灰色のドバトである。

公園のベンチに一人でいるおじさんの周りには決まって鳩が群がり餌を待ち伏せているものである。だから、その一羽がキュンキュンという鳩特有の音を立てて降り立ったとき、やばい、じきにこれは包囲される、と思った。その場を離れようかと思ったが、どうせならモテ男を体験してみようと思い、少し鳩を観察することにした。

鳩は大体自分から1.5m離れたところを徘徊しつつ、赤い目でこちらの様子を伺っている。鳩と僕の間の社会距離。餌をぶら下げたらすぐ寄ってくるくせに、一応の野生本能は残しているらしい。残念ながら僕はパンクズは持っていないのだよ。

面接を前にして、自分が他の生き物に興味を持たれるということが、どこか象徴的なもののように思えた。僕は"御社"に興味を持たれようと必死だ。一方、僕の鳩は僕という存在そのものに可能性を見いだしてくれている。僕が実はパンを持っているというそのポテンシャルに期待してくれている。自分は今、鳩の面接を受けているのだ。

粘ろうと思った。どこまで鳩が僕に真剣なのかを量ってやろうと思った。ただの時間潰しが鳩との大事な一時へ、ひいては、次の面接への験担ぎへと様変わりする。

10分間の鳩との面接。一対一。他の鳩の介入もなかった。その後鳩は僕を公園に置いてきぼりにした。何の収穫も得られずに飛び立っていくその翼は、不思議と落ち込んではいなかった。